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<title>放浪舎</title>
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<description>旅の途中で立ち寄ってみてください．．</description>
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<title>ブルースを忘れる頃 1-5</title>
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<description>　5.日記 　午後6時 　錦江湾の夜景を一望するホテルの窓から迎若菜《むかえわか...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　5.日記&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　午後6時&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　錦江湾の夜景を一望するホテルの窓から迎若菜《むかえわかな》はぼんやりとこれからの夜の帳《とばり》を想像するとじっとしていられなかった。&lt;br /&gt;　その時、ホテルの廊下を黒服に包まれたサングラスの二人組が若菜の部屋の様子を伺ってるとも知らずにいた。&lt;br /&gt;　明らかにその筋の男たちだ。&lt;br /&gt;　短く刈り上げた髪、しなかな身のこなし、獣のような動きでドアの前にたった。&lt;br /&gt;　一人の男が電子チップを埋め込んだカードを胸から取り出した。&lt;br /&gt;　カードロック式のドアだ。男たちはホテルのマスターカードを手に入れていた。&lt;br /&gt;　静かにドアが開いた。&lt;br /&gt;　真っ白い陶磁器でできたバスの中に若菜はいた。&lt;br /&gt;　バスルームのドアは開けたままだった。&lt;br /&gt;　軽音楽が有線から流れていた。&lt;br /&gt;　何かの物音が聞こえた。&lt;br /&gt;　振り返る暇が無かった。&lt;br /&gt;　若菜の頭は何か押し付けられバスタブに沈められた。&lt;br /&gt;　裸体のまま若菜はシーツに包まれてホテルから拉致された。&lt;br /&gt;「やりましたね」&lt;br /&gt;　ベンツのトランクに若菜を放り込むと男たちは急発進してホテルを後にした。&lt;br /&gt;「これでしこたま金を手にできる」&lt;br /&gt;　助手席に収まった一人が胸のホルスターからS＆W社製M500リボルバーを取り出した。弾倉を回すと再びホルスターに戻した。&lt;br /&gt;「さっさと始末しようぜ」&lt;br /&gt;「ああ矢吹のところで面通ししてからな」&lt;br /&gt;「しかし上田はいなかった。女だけだった」&lt;br /&gt;「ああ、ホテルのラウンジでもいったのか」&lt;br /&gt;「後で面倒な事になりゃしないか」&lt;br /&gt;「大丈夫だ、俺たちは金を受け取れば、そのまま中国へ高飛びさ」&lt;br /&gt;　彼らは誤った誘拐を行ったのを知らなかった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　例によって若菜は勝手に部屋を変えていた。&lt;br /&gt;　お嬢様育ちには困ったものだ。&lt;br /&gt;　フロントで海が見える部屋と変えるように粘った。&lt;br /&gt;　ホテルのフロントマンは困惑したが、そこにちょうど到着した二人連れが申し出た。&lt;br /&gt;「よろしければ、私たちの予約は確か海の見える部屋です」&lt;br /&gt;　真っ白いミニのワンピース姿の女だった。&lt;br /&gt;　若菜とあまり年齢が違いがないように見えた。&lt;br /&gt;　少し上ぐらいかしらと思った。&lt;br /&gt;　若菜はどこかで見た顔だと思ったが、その申し出を快く受け入れた。&lt;br /&gt;「ありがとうございます。婚前旅行で来ちゃいました」&lt;br /&gt;　とあっけらかんと若菜は話した。&lt;br /&gt;「上田様、よろしいですか」&lt;br /&gt;　ロマンスグレーで皮製のロングコートを着た男が若菜を一度見た。&lt;br /&gt;「ああ、このお嬢さんの部屋と取り替えてください」&lt;br /&gt;　50代前後だろうかオールバックバックに撫で付けた髪、艶やかな頬、静かな笑い、どこか若菜の親父に似た匂いを感じた。&lt;br /&gt;「それでは青木様」&lt;br /&gt;　ようやくフロントマンは若菜にカードキーを渡した。&lt;br /&gt;　青木とは僕の苗字である。&lt;br /&gt;　青木隆治、これが僕の本名だ。&lt;br /&gt;　それはさておき、そのフロントマンは午後５時で明けだった。&lt;br /&gt;　急いで帰宅しなければならない用事があった。&lt;br /&gt;　代わりに立ったフロントマンは部屋が変更になったことを知らなかった。&lt;br /&gt;　二人連れの男たちが遣ってきた。&lt;br /&gt;　待ち合わせをしていると言った。&lt;br /&gt;　部屋番号を聞いた。&lt;br /&gt;　フロントマンは液晶ディスプレーの細かな文字を目を細めてみた。&lt;br /&gt;　かなり老眼が進んでいた。&lt;br /&gt;　今年還暦を迎えるフロントマンはようやく上田の名前を確認した。&lt;br /&gt;「８階の８５１１号室です」答えた途端だった。&lt;br /&gt;　一人がカウンター越しに何か強烈な刺激臭のするハンカチでフロントマンの口を覆った。&lt;br /&gt;　フロントマンはそのままカウンターにうつ伏せに崩れ落ちた。&lt;br /&gt;　そんな経緯で若菜がベンツのトランクに納まる事になった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　同刻&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　女は佐々木美樹といった。&lt;br /&gt;　かなりいい女だ。&lt;br /&gt;　しかし残念ながら、左手の薬指にエンゲージリングが輝いている。&lt;br /&gt;　僕は人妻を基本的に相手にしない、危険には近づかない主義だ。&lt;br /&gt;「青木といいます」&lt;br /&gt;　と名乗ると女はさもそうだという顔付で私を改めて眺めた。&lt;br /&gt;「まああなたが隆治さん」&lt;br /&gt;「隆治です」&lt;br /&gt;「父がよく話してました」&lt;br /&gt;「いつも叱られてばかりいましたから」と私は恐縮するように頭を下げた。&lt;br /&gt;　唐沢のところへ拾われたのは小僧の頃の話だ。&lt;br /&gt;　それ以来佐々木とは会っていない。&lt;br /&gt;　あまりこの土地で佐々木は付き合いをやっていなかったようだ。&lt;br /&gt;　もちろん極道から足を洗ってから久しい。&lt;br /&gt;　まばらな弔問客を余所《よそ》に美樹は奥の八畳ほどの喪主用控室に案内した。&lt;br /&gt;　座卓を間に差し向かえで美樹は茶を煎れてくれた。&lt;br /&gt;「私が小さき時、父は唐沢さんのところから足を洗ってくれました。この土地で落ち着いた生き方をしたいと、植木屋を始めました」&lt;br /&gt;　確かに唐沢邸の庭園はずっと佐々木が手間隙を掛けていたのを思い出した。&lt;br /&gt;「そうですか植木屋を」&lt;br /&gt;　一瞬美樹は笑ったように思えた。&lt;br /&gt;「私もそうだとずっと思ってきました」&lt;br /&gt;「思ってきた・・」&lt;br /&gt;「父には物後心付いた時からある物を探してきたようなのです」&lt;br /&gt;「ある物・・」&lt;br /&gt;「親戚もほとんど父の若い頃の事があって寄り付きませんでした」&lt;br /&gt;　美樹は部屋の片隅に置いていた風呂敷包みを寄せ、中から古びた書籍を取り出した。&lt;br /&gt;「佐々木には形見分けするような物はありません、これを見て頂きたいのです」&lt;br /&gt;　それは赤茶けた表紙であら紐で閉じられた古書のようであった。&lt;br /&gt;　裏返してみるとかなり判別するのが難しいが達筆な筆文字が綴られている。&lt;br /&gt;『南州』と僕にはそう読めた。&lt;br /&gt;「西郷隆盛・・」と僕はそう思った。&lt;br /&gt;「ええ、西後どんの号です、よくご存知で」&lt;br /&gt;　美樹は不思議そうな顔で、&lt;br /&gt;「どうぞお手に取って」&lt;br /&gt;　僕は面々と綴られた筆文字を読む能力は無かった。&lt;br /&gt;　ただ年月日が記入されているのは分かった。&lt;br /&gt;「日記ですか」&lt;br /&gt;「はいそうです」&lt;br /&gt;「このような達筆な文字を読めません、美樹さんはいかがですか」&lt;br /&gt;「私は郷土史の学芸員をしています」&lt;br /&gt;「ということは何が書かれているかわかるということですか」&lt;br /&gt;「はい、もしこれが本物でしたら、歴史の教科書を変更しなければなりません」&lt;br /&gt;「歴史」&lt;br /&gt;「ええ、西後どんの小さい時から明治政府誕生までの自筆による伝記です」&lt;br /&gt;「本人自ら書いた」&lt;br /&gt;「はい、そいうことになります」&lt;br /&gt;「たいへん貴重な日記ということですか」&lt;br /&gt;　僕は空港で購入した西後のプロフィールの中に、成人する前に諍《いさか》いで怪我をした下りを思い出していた。確かその時を境に西郷は学問の道に精進し始めたと書かれていた。&lt;br /&gt;「ええ、最後の年号を見てください」&lt;br /&gt;　裏表紙を捲《めく》り、その年号を見ても僕にはピーンとくるものは無かった。&lt;br /&gt;「明治二十二年３月４日とあります」&lt;br /&gt;「それが・・」&lt;br /&gt;「西南戦争の十二年後です」&lt;br /&gt;　僕にもその意味する事がわかった。&lt;br /&gt;「つまり、西南戦争で自決したはずの西郷が十二年後に日記を認《したた》めているということですね」&lt;br /&gt;「はい」&lt;br /&gt;「私は父の遺品を整理していてこれを発見しました」&lt;br /&gt;「父が何を探し続けたのか、この日記によって始めて知りました」&lt;br /&gt;「それまではご存知なかった」&lt;br /&gt;　何か美樹はじっと下に視線をやると、&lt;br /&gt;「はい、父とは別に暮らしていましたから」と強調した。&lt;br /&gt;「父がこの土地にやってきた意味がここに記されていました」&lt;br /&gt;「薩摩の隠し財宝」&lt;br /&gt;「薩摩の・・」&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　僕は『日本幻影図鑑』を美樹に見せるべきか躊躇していた。&lt;br /&gt;　この図鑑と日記はどう関係するのか、あらためて唐沢のおじきに問い詰める必要がありそうだ。&lt;br /&gt;　本来渡すべき佐々木はすでにこの世にいなかった。&lt;br /&gt;　残った美樹だけが何か熱心に話していたが、僕は手に入れてはいけないナンバー２を手に入れてしまった事に困惑していた。&lt;/p&gt;

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