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2011年6月26日 (日)

良子のヒ・ミ・ツ

第五回小説宝石新人賞一次予選落選作品(^◇^)

     三

 口上場に集まった客は取らぬ皮の胸算用(むなざんよう)よろしく、【愛の伝道師】の購入後の莫大な利益を考え、目が明らかに血走っていた。先頭に並んでいる客は常連で占められている。
 いったいいくらぐらい儲かるのか?
 武はジャムの小瓶大の【愛の伝道師】一瓶を五千円で販売している。
 ネットオークションでは10倍から20倍が相場との話がある。
 つまり一瓶10万円を出して購入する者もいることになる。

 巻物に記された調合を調べるため、アパート近くの大学へ訪れた。古文書を研究している准教授からK大学の某(ぼう)名誉教授を紹介され、巻物を持ち込んだ。
 某教授は内容より、巻物の装飾に興味を示した。
「あんたこりゃあ狩野派の模様にそっくりだ」
「どんなもんでしょうか」
「えれえしろもんかもしれんぞ」
 と教授は目をきらめかせた。
「とりあえず調べさせてもらうよ」
 預けたことを忘れた頃、かの某教授より携帯電話に連絡があった。
「武藤さんかい、内容を解読したから、大学へ来てもらえるかのう」
「はい、暇ですから」
 昼下がりのひっそりしたキャンパスを通りぬけた教授棟の一室で教授は難しい顔で待っていた。
「とりあえず、内容はほれこの通り、ワープロで清書したよ」と教授はA4用紙十数枚が入った封筒を渡してくれた。
「君、これをどこで手に入れた」
「武藤家伝来の家宝です」
「家宝?」
「すごいもんじゃ」
「すごいというのは?」
「この巻物は、君、皇室の所有物だったはずだ・・・」
「皇室?」
「失われた巻物、君の祖先が拝借(はいしゃく)したか、なんらかの手段を講じて手に入れた可能性がある」
「清書した内容にもあるが、天孫(てんそん)降臨(こうりん)の話が出てくる。君は確か鎌倉時代ぐらいと話していたが、これは平安前期に作られた和紙でできている、私の知り合いに炭素年代測定の鑑定をしてもらった」
「平安前期ですか」と武はいった。
「内容を要約すると三篇の物語が記(しる)され、最期に子孫繁栄を願い付記という形でなにかの薬について調合方法と使用方法が書かれている」
「三篇の物語?」
「そうじゃ、第一編は大陸から渡ってきた経緯、第二編は天下(あまが)原(はら)での天孫降臨、そして問題の第三篇」
「問題の第三篇」と武は鸚鵡返(おうむがえ)しでいった。
「すごい事がかかれている。血の断絶」
「血の断絶?」
「皇室の隠蔽(いんぺい)された秘密が書かれている。もし内容が真実であれば・・・歴史の大発見になる」
「歴史の大発見!」
「天と地がひっくり返るぐらいの話が面々と記されておる」
「薬についてはどのような効能があるのでしょうか?」
「そうそう、私は専門外でなにに利くか、とんと見当がつかん、知り合いに調べさせようか」
 と某教授はあきらかに興奮していた。
 血の断絶など武藤武にはどうでもよかった。
 武の身体に起こった奇跡について話すべきか躊躇(ちゅうちょ)していた。
「それで武藤さん、さらにこれを私にしばらく預けてもらう分けにいかんかのう」
 と教授は武藤が断るはずがないと確信しているように擦(す)り寄ってきた。
 武藤は一つだけ条件を付ける事を思いついた。
「先生、その付記の部分・・・武藤家の直伝薬の製造にかかわる箇所について、必ずや秘匿(ひとく)いただけるお約束をいただけるのであれば、
お預けいたします」
「私は第三篇以外、興味がないよ」
 と教授は話したが、A4用紙を一枚取り出し、巻物の預かり書を認(したた)め、氏名を明記の上、捺印して武に差し出した。
「ほら、第三篇以外について口外しない事を誓うと書いたぞ」と教授はいった。

 なけなしの大枚を叩いて、教授の解読した薬の材料を集めだした。もちろん叔父からもらった一瓶があったが、それは手を付けないつもりだった。そろそろ叔父夫婦に返納しなければ、叔母から嫌われるような気がしたからだ。
 ここで薬の成分を明記したいのだが、賢明な読者諸氏にまんまとかっさわられる訳にいかないので割愛(かつあい)する事をお詫(わ)び申し上げる。
 ヒントは鹿の角、これはえらい高価だった。そしてある茸(きのこ)、これも目が飛び出すような値段だった。そんなかんなで、集めた材料を家の風呂場で天井にロープをかけて干していた。
「ぎゃあ、とうちゃん風呂に・・・」
 と親が見ても興奮する全裸の美香が飛び出してきた。
「あ、ごめん、とうちゃん、薬の材料干してるの言い忘れてたわ」
「もうびっくりよ、風呂の天井から鹿の角がにょきりだもん・・・おいら銭湯いってくるわ」と美香は銭湯へ出かけた。
 夜なべなどする必要もなかったのであるが、兎に角、調合にはまって三日ほど試行(しこう)錯誤(さくご)の結果、ついに叔父から借用した一瓶と似たものが完成した。部屋中、すりこ木やすり鉢がころがり、異様な匂いに包まれていた。
 美香は呆(あき)れ果て押入れの中で熟睡していた。
 白色ワセリンに丁寧(ていねい)に混ぜ合わせ、ジャムの空き瓶を熱湯洗浄して乾燥した中に詰めた。
 さて試験をする必要がある。
 自分の身体は一度経験がある。
 美香の起きる前にトイレで試すことにした。
 『臍より下三寸、陰棒生えし少々上に塗りこめ、次に肛門の周りに丹念に塗りこむべし』と教授の解読した文書にある。
 さて便座に座り、自作した薬の効能を試してみた。叔父のより少々匂いが薄い。若干肌への刺激がある。これは丁子(ちょうじ)の成分による刺激である。十分調整可能だ。
 塗りこめて、1分未満で肛門より、何かが進入する感覚がある。これが不思議な感覚だ。脊椎(せきつい)までじーんと何かが流れ込む。次に男性自身の付け根を締め付ける感覚が襲ってくる。昔、物の本で男性自身を輪ゴムで止めてうっ血させて性交におよぶうんぬんという文章を読んだ記憶がある。なるほど根元の血流を活発にすることで男性自身への血流を増すのか、など考えていると・・・やはり、一本の直立した立派な男性自身がそびえていた。
 武藤武はこの男性自身を試してみたかった。
『そういえば、良子が駆け落ちしてから、あれをした事がない・・・』という事に気がついて呆然としていた。
 武藤家では、良子が去ってから、家庭内で性に関することは完全にアンタッチャブルになってしまっていた。
 美香に月のものがやってきた時も、武はおろおろするばかりであった。
「とうちゃん、布団の中血塗まみれや」
 と美香小学五年の夏の朝、初潮が訪れた。武はこう言った記憶がある。
「病院へいかならん」
 急に美香が笑いだした。
「とうちゃん、これ生理や、おいらついに大人の身体になったわ」
 確かに美香の言う通りだった。
 女親のいない悲しさがある。
 武の母親に電話を掛けた。
「武、まずナプキンだ。たぶん学校で教わっているはずだから、後は赤飯炊きなさい、それより美香に代わって、いいから早く・・・」
「身体いたくないか」
「ばあちゃんか、大丈夫や、今トイレでいっぱいティッシュ当ててきたわ」
「とうちゃんに必要な物買ってもらいな、ばあちゃんそちらに行けないけど、がんばってな」
「うんわかったわ」
 そんな経緯(いきさつ)があった。
 トイレの中でそそり立った一物を凝視しながら、武は男のくだらなさを感じていた。
 これでセックスを試してみたいだと、なんて俺は堕落(だらく)しているんだ。
 娘が一生懸命、夏の炎天下、弁当売りで生計を助けているのに、お前は何をしているのだ。妙薬だと?
 朝一でハローワークに出掛け、仕事を探すのが親の責任じゃないか、どの面下げてトイレで男自身をおっ立ててるんだ!
 馬鹿過ぎて・・・と思わず涙ぐみそうになった。急にトイレのドアが開いた。
「とうちゃん、なにうなってるんや」
 美香だった。
「げ、またあれたってるわ」
「美香、ドア閉めてくれんか」
 勢いよくドアが閉じられた。
「早く出てよ、おしっこ!」と美香が騒いでいた。武はどうにか男性自身をパンツに格納してズボンを引き上げ、トイレを後にした。
 そのまま布団に潜り込んでしまった。
調合に集中し過ぎた。
三日ぶりの睡眠で武は久しぶりの夢精を経験した。

「それでとうちゃん、その軟膏売るんか」
 夕方まで完全に寝きった武の前に、職場の売れ残り弁当を皿に盛りつけながら、美香はいった。
 武は布団から首だけを出した格好で、
「こんな薬売れるんか」
「びっくりや、三日三晩、とうちゃんが真剣に作ったもんやないのか」
「そりゃそうだ」
「おいらが弁当のついでにサンプルを客に配ろうか?」
「なんやそれは?」
「よくメーカーから新商品のサンプル配り頼まれるんや」
「サンプルか?」
 と武藤武はすでに朝の凹んだ気持ちを切り替えていた。
「美香、それで行こうや!」
 一瞬、武のあたまを過ぎった光景がある。
 近所の夏祭りの露天でどういう経緯であったか忘れたが、良子がバナナの叩き売りをした。さすが的屋一家の娘、門前の小僧習わぬ経を読むの例えよく、実に堂に入った口上ぶりだった。
 半被(はっぴ)に日本手拭(てぬぐい)をきりりと頭で締めつけ、一尺三寸の板台に白(しろ)足袋(たび)をかけ、白(しろ)股引(ももひき)もあらわな姿であった。
「やいやい、天下の公道を闊歩(かっぽ)する紳士淑女の皆々様方、さあさあ寄ってらしゃい、見てらっしゃい、ここに並べしバナナ、バナナ、バナナと申しましても、人間様と同じで親もあれば兄妹もござります。生まれは遠いフィリピン、いわゆるフィリピーなでござります。
 はるばる日本まで船で揺れること10日と5時間、最初はもぎたてま緑の房がなんと皆様のお口に合うべきま黄色に熟したお姿がこれでござります。
 さてさて、ここに並べしバナナをよくよくごらんくだされ。そのへんの八百屋で売っているものとはちいと違いがござります。
 そこの粋なだんな、おわかりで?
 まず論より証拠、ここに取りい出だしたるバナナを一本だんなにご賞味いただきましょう」
 一番前に立つ若い男にバナナを一本渡す。
 いわずと知れたサクラ役の男。
「だんなどうです、ああおいしい」
「ただで物をもらえば、誰でも悪い気はしないものでござります。特に食い物ときちゃ、誰でも世辞の一つも出ます。さてお集まりし、皆様のお疑いをすっきりといたしましょう」
「ここに取り出したのはまな板、そしてこれが出っ歯」と良子はまな板に出っ歯をブスリと立てる。
 口上場の客にざわめきが起こる。
 良子はビニールの買い物袋を取り出す。
「これは、敵情視察で近所のスーパーで手に入れたバナナでござります」
 と言い終えるやいなや、房から一本取り出したバナナを出っ歯の刃に向けて左右に振りながらスライスを始めた。次々とバナナが輪切りでまな板の上に落下して、二つに分かれて輪切りのバナナが調度半分になった形状で積み上がった。
 再び客にざわめきが起こる。
「さて、こちらが当店販売のバナナ」
 と再び同じ動作でバナナをスライスした。
「おお」というどよめきと拍手が巻き起こった。
 先ほどの二つのバナナのスライスの上に見事に後からのバナナのスライスが積みあがっていた。一つの取りこぼしも無く、二本のバナナはスライスされてまな板に積み上がっていたのだ。
「さあ、ここからが本題だ。違いの分かるお客様なら一目瞭然(いちもくりょうぜん)、おわかりの方、さあ、えんりょなく」
 一人の中年の男が手を上げる。
 もちろんサクラ。
「切り口が・・・きたない!」
「おお」と再び客からため息ともつかない驚きの声が起こる。
 確かにじっくりバナナのスライスの切り口を確かめると、明らかな違いがある。
 下にスライスされたスーパーのバナナの切り口は皮が凹み、すでに褐色に変色しつつある。それに対してどうだろう、後からスライスしたバナナの切り口はすっぱりとした切り口で、スライスしたはずの切り口がまったく目で見ただけではわからない。つまり後からスライスしたバナナを真っ二つにして積み上げたようにしか見えなかったのだ。
 良子の包丁の技術なのか、バナナの鮮度がこの現象を起こすのかはわからない、この実演を見たものは必ずといって鳥肌が立つ。
 目の前で魔法を見せられたようなものだ。
「さあ、違いは一目瞭然、おいらと同じ事を試したいお方がいれば、どうぞご遠慮なく」
 当然チャレンジしようとする奇特な客はいない。
「さあこのバナナを皆様にお分けいたします。
一本、一本売りしたいところでありますが、この房一つずつが家族を構成しております。おとうさん、かあさん、にいちゃん、ねーちゃん、そして妹、この端があかちゃんでござり。
もちろん、じいちゃんにばあちゃん、さあ一家団欒のお茶受けに、スタイルを維持したい素敵なお嬢様のダイエットに如何でござります」
 客がわれ先にバナナを買う姿を武藤武はぼんやりと布団の中で思い出していた。
『そうだあの時の中年のサクラ、良子のスーパーの社長ではなかったのか・・・』

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