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2007年2月11日 (日)

恋愛小説依存症候群 かくれんぼう

   十一 かくれんぼう
 
 BGM:HIGH and MIGHTY COLOR - 辿り着く場所

「どうしたのかしら外が騒々しいわ」
 谷繁真由美は編み物の手を休め、擦りガラスの窓に写る赤色灯を見た。
 外には十台を超えるパトーカーとそれに乗ってやってきた警官達がバリケードを築いていた。
 どうみてもラブホテルを連想させる建物に『近代精神病院』とネオンが点滅している。間違って駐車場に車を止めてしまうカップルがいそうだ。
 食堂の入口で極道達がにらみ合っている。
「はやく、柴田、連れてくる、お前たちのボス、解放する」
 アジアンマフィアのボス秦劉玄だ。
 診察室、近代正道と看護師木本夕香里は診療に当たっていた。
「先生、パトカーのサイレン聞こえません」
「木本先生、ちょっと見てきてくれ」
 近代はまだプレーモードであった。
 防衛庁のあつしくんはお預けを食らった状態になってしまった。かなり恨めしそうにドアから出て行った夕香里先生を眺めていた。
「あつしくん、ちょっと休憩しましょう」
 股間の一物はだらしなくお辞儀をしていた。

 私と柴田良二、マリーは手錠をかけられたまま警邏係松本のパトーカーで現場に到着した。警視正本村自ら運転してきたパトカーには、日向あおい、谷繁和夫、三森武が同乗した。御鉢を食らった警邏隊隊長は北京ダックがエアコンのヒータで解凍され異様な匂いが充満したオースティンミニクーパーを運転してここまで辿り着いた。
「こりゃ、大捕り物だ」
 まさにここを指揮するのは自分とでも言いたげに、警視正本村はパトーカーを降り立った。
『あおいちゃん、俺に惚れちゃいけないぜ』
とは言わなかった。
「それで、あおいさん、後の容疑者を君のおかあさんに面会させればいいんだね」
 もちろんこの容疑者は私のこと。

 真由美はめったに部屋から出たりはしない。
 真司が留守の間に戻ってきたら大変だからと思っていた。でも、この日は胸騒ぎがした。スニーカーを履き、廊下を駆け出した。
 すれ違った施設担当の大木鉦治《おおきかねじ》は思った。
『しばらくぶりにお嬢さんを見た、あいかわらずおきれいだ』

 病院一階、受付の國城綾はフェロモンを撒き散らし、到着した警官隊を翻弄《ほんろう》していた。ほとんどの警官達は食堂へむかわず、受付で足止めを食っていた。
「それで、今日てイブよね、こんな日に診療してるのって、うちぐらいもんよ、この後、誰かクリスマス一緒してくれると嬉しいんだけど」
 彼女は形のいい脚を組み替えた。その奥の構造に興味のある独身警官達は全員、指で自分を指した。中には妻帯者がいたかもしれない。國城綾は玄関から出て行く、真由美を目撃した。『あら、大変、真由美さんだわ』

 アジアンマフィアの金栄華は近所から集まった野次馬の中に紛れていた。パトーカーから手錠姿の男が引き出されるのを見た。
『やつが柴田か』
 それは大きな勘違いで、私が警視正本村に催促されパトーカーを降りるところを目撃したのだ。
『あのミニクーパーに金があるね』と金は直感した。その直感は正しかった。足早にミニクーパーの運転席側まで近づき、胸のホルスターからS&Wモデル60を取り出した。
 この様子を野次馬の中で同じように紛れ、目撃していた男がいた。この物語の最も重要な人物だ。『伯父、武がイブの日に不在、考えられる場所はここしかない、どうもややこしいことが起こっているらしい』
 谷繁と白抜文字が印刷された半纏姿のいぶし銀の男がマルボロを咥《くわ》えていた。
 三森武の父親で真由美が嫁いだ男、三森巌《みつもりいわお》がそこにいた。年齢は五十を少し超えている。真由美とは十歳以上離れていた。谷繁和夫の店で指物を作っている。彼は最初から職人であったわけではない。渡世の色々な義理を重んずる世界に生きてきた。
その件については別途他話に後述することにして、真由美は兄の和夫が引き取る形で預かっていた巌に無理やり嫁がされた。それは、真由美のお腹にあおいが宿っていたからだ。真由美の心が別にあるのは巌は重々承知の上で真由美と所帯をもった。あおいが誕生してしばらく真由美は落ち着いていた。二人の間に、武が誕生した頃から、真由美に変調が起きた。
 巌を真司と時々、取り違える錯誤が起きた。頭の中でいつも『友部真司』がいたからだ。ある日、あおいと共に疾走した。三森巌は武を親戚に預かり、行方を捜した。そして辿り着いたところは、やはりこの『近代精神病院』だった。近代正道に真由美とあおいの面会を求めた。一目見て、真由美は違う世界に生きていた。近代は、ここで完治するまで療養すべきと忠告した。あおいは幼いながらも、母の面倒をみたいと言う。療養費もあおいの生活まで面倒を見させてくれと近代のほうから申し出があった。『なぜ』と巌は最初思った。
 しかし、一目見て近代正道の人柄を信じた巌は二人を託すことにした。
『あれから十年が過ぎた』
 ミニクーパーにリボルバーを持った男が押し入ろうとしていた。巌は自然と身体がミニクーパーに向かった。警邏隊隊長の村岡は運転席の窓ガラス越しに拳銃を突きつけられているのがわかった時、『なんで俺ばかり、こんな目にあう』と嘆いた。車内は窓を全開にしても異様な匂いで眩暈《めまい》がするほどだった。
 金栄華は運転していた警官にリボルバーを向けたまま、車に乗り込もうとしていた。その拳銃を叩き落とされた。その瞬間、引き金が下り銃は暴発した。現場は一瞬で騒然となった。金栄華は喧嘩慣れしている。次の攻撃を回避するため、その場から飛びのいた。
 銃を叩き落とした男が対峙していた。その半纏姿の白髪の男を一目みて、金はできると思った。警邏係松本と警視正本村はすぐにミニクーパーの異変で振り返った。一目でアジアンマフィアと思われる男と半纏姿の男が向かい合っていた。二人はニュー南部を取り出した。
「動くな」警視正本村だ。

 BGM:尾崎豊 - ダンスホール

 私はその格闘のおかげで一人残された状況になっていた。
 病院の方向から誰かが駆けてくる足音があった。

「真司君見つけた!」

 懐かしい響きのある優しい声だ。
 二十二年間経っても忘れじの声。
 振り向けなかった。真由美の顔が私の想像していたものととてもかけ離れている気がした。もちろん、きっと彼女も同じだろう・・
 その瞬間、後ろから抱きつかれた。
 封印されていた鍵を回す勇気をください。と私は切に願った。
「おかあさん」あおいの声が響いた。
 日向あおいの横で三森武は、友部真司という小説家の後ろから抱きついた女学生を呆然と眺めていた。
 セーラー服に紺色のハイソック姿の谷繁真由美はどうみても高校生ぐらいにしか見えない。三つ編みにした髪型になんら不自然さを感じさせない。

 いつのまにか、近代正道が私の横に立っていた。白衣姿の近代はこう私に話した。
「真由美さんは貴方のお話の中でしか生きてきませんでした。貴方が結末を教える責任と義務があります」
『たしかに、この話の結末はもう決まっているんだよ』と私は自分に言い聞かせた。
 私は振り返りこう言った。
「もう見つかっちゃった。こんどの鬼はマミちゃんだね」
 涙でぐちゃぐちゃになった真由美は別れた時となにも変わっていない姿でそこにいた。
「真司君、もうかくれんぼういや」
「どうして」
「だって、だって」真由美は私の胸に倒れこんだまま泣き崩れた。
 そう二十年間以上泣くことを止めていた彼女はおいおいと泣き続けた。今までの涙がまとめて溢れたきた。
 私の周りにはいつのまにか人垣ができていた。

 私達は極道同士の対決などすっかり忘れてしまっていた。
  後で警視正本村恒孝から聞いた話によると、暴力団の争いを納めたのは谷繁和夫とのことだ。どのような経緯があったかは今となってはあまり意味がないかもしれない。柴田良二の持っていたAK-47から発射された弾で怪我や死んだ者は一人もいなかった。模擬弾だったからだ。マリーともども刑期が短くてすむそうだ。一番得をしたのは、警視正の本村かもしれない、大量のブラックマネーの摘発、暴力団を一毛打尽にした功績が称えられ、私の住むマンション近くの警察署の署長になった。なぜ、私のマンションの近くといえば、私のマンションに日向あおいが同居することになったのが一番の理由らしい。週に何度も私のマンションへ入り浸っている。別に追い返す理由もないのでそのままにしている。そのうち『おとうさん』などと言われそうでちょっと引いてしまいそうになる。
 あの場にいた三森巌はほんとうにできた奴だ。私が女だったらきっと惚れているかもしれない。
『先生、真由美を頼みます』と丁寧に腰を折り深々と頭を下げたのを決して忘れることができない。三森武は時々マンションを訪ねてくる。もちろん泊まっていく。私のマンションに母親と姉が住んでいるからだ。なにか父親の三森巌に話せない話をしているらしい、私は蚊帳の外に違いない。今でも父と二人で暮らしている。

 とにかく騒然としていた現場が納まって落ち着いた時、真由美と私は二階の真由美の病室、とは言っても、昔の私の下宿を再現した部屋に二人でいた。
「真司君さ、もう帰ってこないかと思った」
「もう絶対、黙ってどこにもいかないよ」
「うん、ねえ、今日、真司君の部屋に泊まっていいかしら」
「うん、いいよ」
「マミ、嬉しい」
 やっと二人にイブが訪れた。

 BGM:Bing Crosby - White Christmas

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コメント

ハッピーエンド?なのかな。
1部ということは続きがあるんですよね。 あおいちゃんの弟くんのこととか?

隊長 > ちょっとおしい 武の友達が中心になるよ(^◇^)
    「黒い記憶」という題名になるけど、登場人物はほぼ
    同じだよ(^O^)/ 
 

投稿: ゆかこ | 2007年2月13日 (火) 22時12分

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