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2007年2月25日 (日)

黒い記憶 解離性同一性障害

   三 解離性同一性障害 (Dissociative Identity Disorder:DID)

「いろいろな要因が複合し、美奈ちゃんの中にもう一人の人格が誕生しました」
「美奈ちゃんはまだ十歳でこれと向き合わなければならない・・もう一つの人格がどのような経緯で、美奈ちゃんの中に存在するのか、この事件のすべての鍵は、美奈ちゃんの片方の人格に問いただすしかないのが事実です」
「この場に居合わせた全員がこの人格と対談に参加することを、私は希望します」
『事件は心の中で起きている?』と有名なテレビ映画の名文句のパクリが浮かんだ。
「今、美奈ちゃんの意識はオリジナル人格が、制御している状態です」
「オリジナルではない、もう一つの人格、二次的人格が身体を制御した時、美奈ちゃんはすべての意識がなくなる」
「それは、今回の事で雄弁に物語っています」
「先生、ずうと私の中で私ではない・・誰かの声が聞こえます」
 近代は園山美奈に軽くうなずいた。
「それを解き明かす事こそ、この場に居合わせた全員の問題です。この問題を解き明かして初めて、私達は事件の全容を把握することができると考えます」
「近代先生、二重人格ということですか」
と私は近代の自身に満ちた顔に何か不思議なものを感じた。
「友部さん、美奈ちゃんの心はそう単純ではないようです」
「本村署長、この事件で最も重要な人物の登場をお願いいたします」
 本村署長はダイニングから立ち上がると、あおいの部屋のドアを開けた。
 最初からそこに待たされていたのだろう、本村署長に促《うなが》された新たなヒロインがダイニングテーブルに着席した。
「まあ、女優の碧早苗《こんさなえ》さんですね」と木村恵理子はいつのまにか私の膝の上に乗っていた。誰も私と恵理子女史の事は興味がないようだ。
 いくつかの映画に出演し、いくつかの浮名を流し芸能界から忽然と姿を消した。『銀幕を飾ったその容姿は往時のままなんの色褪せもしていない』と私は黒衣に包まれたスレンダーボディに釘付けになっていた。恵理子女史は私の股間の変化を簡単に知る位置にいたので軽く背中を抓《つね》った。
『まだ四十を少し超えたぐらいだろうか・・』
  あおいが食後のミントティを全員に配り終えた時、園山美奈が肩を震わせて俯《うつむ》いているのに気がついた。
「美奈ちゃんには黙っていました」近代は難しい顔付きで園山美奈に語りかけた。
「こちらが美奈ちゃんの母親です」
『え、美奈ちゃんの話では、高校の物理の教師ということではなかった?』
 次の瞬間に聞いた声がどこからくるのか、私は判断ができなかった。

「誰の許可で来た」

 とても暗い男の声音《こわね》だ。
 ダイニングルームは一瞬で凍りついた。
 碧早苗はじっと園山美奈を見つめていた。
 彼女の表情は恐怖で歪んで見えた。
「美奈ちゃんの中にいる、誰か、それは私はわからない、でもはっきりとした。性別は男性ですね。碧さん」近代はこの有名女優に答えを求めた。
 早苗は上質の皮製ポーチからハンカチを取り出し、そっと口を押さえる仕草をした。
「ええ」早苗はそれを言うだけでもかなりの困難な精神状態に感じられた。
「私は最初、武君から美奈ちゃんの話を聞いた時、鍵は貴女がご存知だと思いました」
「それについてお聞きしたいと考えましたが、その必要がないようだ」
「美奈ちゃんを制御しているのは、すでにオリジナルの人格ではないのですね」
 早苗はハンカチで口を押さえたまま、近代にうなずいた。
「さて、そこにいるのは誰ですか」
 沈黙が支配した。 
「く、く、く、く」
 地の底から湧き上がってくるような響きの笑いが園山美奈から聞こえた。
「はは、はは、愚か者たち、私が誰かということか」
 白眼を剥《む》いた園山美奈の顔が近代を捉《とら》えていた。隣にいた三森武はあおいに縋り付いていた。もちろん我、木村恵理子女史は私の正面からきつく抱きつき、固く眼を瞑《つむ》っていた。不思議なことに真由美は優しい眼差しで園山美奈を見つめていた。
「近代さん、貴方なら少しはわかるかも知れない、人間の人格などいくらでもコピーできるということが・・・」
「人格のコピーができるかはわかりません。しかし、ある人物の人格を別の人間に反映させる研究があることは知っています」
「私は命がわずかと知った時、肉体ほど空しいものはないことを知った。必ず滅びる・・・」
「それで、若い肉体に人格をコピーしたというのですか」近代は明らかに憤っていた。
「話せば長い時間が必要だ。貴方は専門だからよくわかると思う、多重人格とはもともと自分自身の別の者と話すことが切欠《きっかけ》で発症する。それは妄想や空想ではなく、普通に生活する人間が自然に頭脳の中で行っている行為だ・・・」
「たとえば、なにか商品を買う時に、選択上に二つの物があったとしよう、その時、人格はどのような経過でそれを決めるのか、過去の経験や判断基準を持ち出してジャッジするだろう、これは誰でもが行う・・・」
「それが、ある時、人格を傷つけるような出来事に会ったとしよう、誰にも相談できず、抑圧された状態が続く、そしてそれを救うのが自己の中にある別の人格と語り合う行為で救われるとしたら・・・」
 私の前に給仕されたミントティからゆっくりと湯気と香気が漂う。
「つまり貴方はその方法を用いて、美奈ちゃんに乗り移ったとおしゃられるのですか」
「近代さん、実に頭脳が優秀であるようだ。この碧は私が世話をしていた。この美奈は私自身の分身でもある」
「私は身体を失ってからちょうど十年間がたった。その間、この身体を完全に支配できなかった。しかし、今、私は支配権を獲得した。人格がもし『心』と同一としたら、彼女の心は、じっと私の様子を伺っている・・」
「彼女は最初抵抗を続けた・・・、しかし、私の中にある悲しみを理解した時、彼女は石の如く押し黙ることを約束してくれた」
「近代さん、いいことを教えよう、精神医学の世界でもこれを患者自身から聞くことは稀だろう、美奈は意識を失ったりしない、人格が寝ているだけだ。私も寝る。そのたびに、この肉体はどちらかが制御している。もちろん、二人とも寝てることもある。そして、もっとも興味深い事、見る夢が同じなのだ、私が記憶している事象からの夢、そのものを美奈も見る・・つまり夢を通じて二つの人格は会話をしている。直接話すことができない、どちらかが寝ている間、肉体の体験や記憶は片方は知らない」
 場を支配する深遠な雰囲気は、かって私の与《あずか》り知らない世界だ。
 ダイニングテーブルからようやく顔を出す身長しかない美少女の口から、語られた物語・・・
 こうして私は、これから続く近代正道の壮絶な戦いに巻き込まれていった。
 
BGM:Hikaru Utada - FINAL DISTANCE

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コメント

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投稿: DIXONDena | 2010年8月 5日 (木) 16時07分

すごい!! なんてミステリアス! 一気に読んでしまいましたww 続き楽しみにしてますね!

隊長>ありがとうねっwww カキコする

投稿: ゆかこ | 2007年2月28日 (水) 23時01分

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